『自由民主党による「改憲 4項 目」の緊急事態対応についての素朴な疑間』を自民党憲法改正実現本部に質問しました

『自由民主党による「改憲 4 目」の緊急事態対応についての素朴な疑間』を自民党憲法改正実現本部に質問しました

 当会では自民党「改憲4項目」の緊急事態対応:条文イメージ(たたき台素案)より、いろいろな疑問を併記した形で、8項目の素朴な疑問をまとめ、自民党憲法改正実現本部に質問をしました。私たちの研究資料として同本部より回答(22年8月2日受取)を頂きました。

 憲法改正に関わる論議は重要なものであり、特に緊急事態に関するものは極めて重い課題です。現在、緊急事態に関わる改正条文案が明らかになっているものは、上記4項目中の「緊急事態対応」です。しかし、条文案を含めた報道は少なく、自民党「改憲4項目」の緊急事態対応:条文イメージ(たたき台素案)のテキスト自体が見つけにくい状態です。私たちは、まず現在の自民党改正案を自民党憲法改正実現本部に確認するところから始めました。度々の電話での問い合わせに、担当者より資料の紹介など暖かく対応いただきました。この過程も有益なものでした。また、同実現本部ホームページの資料配置が見つけやすいものにレイアウトされたことも貴重でした。

 以下が私たちのまとめた8項目の質問と、それぞれへの自民党憲法改正実現本部よりの回答全文、私たちの討議報告となります。

質問  緊急事態つて何 ?

 そもそも何が緊急事態となり、大災害にあたるのでしょうか。その要件とは何でしょうか。

A. 南海トラフ地震や首都直下型地震などの大規模な自然災害等が発生した場合にも、国家は常に機能して国民の生命・財産を守らなければなりません。

 自民党の緊急事態対応において、「緊急事態」とは、①「大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるとき」(この場合に、国会議員の任期を延長することができます) ②「大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるとき」の二つを想定しています。

質問 2  緊急事態と判断するのは誰 ?

 起こっている事象が緊急事態であると判断するのは誰でしようか。

A. 国会議員の任期延長については国会が自ら判断します (各議院の 3分の 2以上の賛成が必要です) また内閣は、法律の定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができます。内閣は政令を制定したときは、速やかに国会の承認を得る必要があります。

質問  緊急事態はいつ始まつていつ終わるの ?

 緊急事態はいつ開始されて、いつ終わるのでしょうか。

A.  緊急事態対応」において想定している「緊急事態」は、質問 1で述べたような事態が解消すれば、直ちに終了することになります。具体的な手続は、法律で定めることになります。

質問  緊急事態の時、内閣が政令を作るんだけど、そのあと国会の承認が得られなかつたらその政令は無効になるの ?

 緊急事態下では内閣が政令を制定しますがその後国会の承認が得られなかった場合、その政令は無効になるのでしょうか。

A. もし国会の承認が得られなければ、政令は失効することになります。

質問 大災害のとき、国会議員の任期が変更できるけど、いつ平常に戻るの ?

質問 5-1 「大災害」つて?

 大災害下では特例として国会議員の任期が変更になりますが、この特例が終了して平常時に戻るのはいつでしょうか。

A, 国会議員の任期延長は特例的なものですので、その前提となつている事態が解消し、選挙の適正な実施が可能になった場合には、速やかに原則に戻らなければなりません。「条文イメージ (たたき台素案)」では、国会議員の任期延長に関する詳細は法律で定めることとしており、具体的には、この「法律」において定められることになります。

質問 今まで日本にはこういう規定がなかったけど、それで困つたことつてあつたつけ?

 日本にはこうした緊急事態条項がありませんが、それにより対処が出来なかった事案、また対処が困難であった事案があったでしょうか。そういう時、この条項があれば何をどう対処してきたのかも含め、何年のどういう事案で何ができなかった、 と具体的な回答をお願いいたします。

A. 南海トラフ地震や首都直下型地震などが発生した場合、国会が立法機能等を果たせなくなる事態も起こり得ます。阪神淡路大震災や東日本大震災は、統一地方選の年に当たっていましたが、被災地で選挙を執行することができず、地方自治法が定める首長や地方議員の任期を、特例法を制定して延長しました。

阪神淡路大震災:平成74月の選挙→同年611日に延期

 東日本大震災:平成234月の選挙→数次にわたり延期し、最終的に最後の選挙が行われたのは同年1120

 地方選挙は法律で選挙期日の延期・任期延長が可能ですが、憲法に任期が明記されている国会議員については、憲法改正を行わない限り任期を延長することはできません。

 どのような事態にあつても国会の機能を維持し、国民の生命と財産を守るためには、国会議員任期の特例規定を憲法に設ける必要があります。

質問  緊急事態で内閣に権限が集中すると、どんないいことがあるのかな ?

 緊急事態に内閣に権限が集中することによる具体的なメリットは何でしょうか。

A. 議員任期延長を行つたとしても、大規模災害の発生によって議員が国会に参集できないなどの理由により、国会が機能できなくなることは想定できます。このような場合においても国民の生命と財産を守るためには、内閣は、法律の定めるところにより、政令の制定も必要になることが想定されます。

 内閣に権限を集中させるのではなく、大災害により国会が機能できないような事態においても、国家の立法機能を維持するためのものです。同時に、事後的な国会の速やかな承認を必要としています。

質問 どうしてこれが緊急事態なの ?とか、内閣が作つた政令おかしいんじゃない?と思 つたとき、どうやつたら直してもらえるのかな?国民は何ができるのかな?

 果たしてこれが大災害あるいは緊急事態と言えるのか、国民に疑間があるとき、あるいは内閣の作成した政令に疑間があるとき、内閣に疑間に答えてもらう、あるいは再考してもらうにはどうしたらいいのでしょうか。また、大災害でも日本全土を覆うようなものはこれまでになく、局地的ですが、災害に見舞われた地域以外も緊急事態下に置く必要性はなんでしょうか。


A.
 国会議員の任期延長及び緊急政令のいずれについても、法律や政令を国会が、判断・承認する仕組みになつています。改正が必要な場合は、他の法律と同様に、改正を行う必要があります。

私たちの討議報告

 平易な文でわかりやすく回答頂きました担当者に御礼申し上げます。憲法審査会討議などでは事態の種類別に5分類化などで意見表明されてもいる緊急事態を、「①大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるとき ②「大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるとき」として、改正条文案の64条の2、73条の2それぞれに対する二分類で捉えることは、私たちにとって理解しやすいものと思います。

 また、質問3回答で「『緊急事態』は、質問1で述べたような緊急事態が解消すれば、直ちに終了することになります。」、質問5回答でも「国会議員の任期延長は特例的なもので、その前提となっている事態が解消し、選挙の適正な実施が可能になった場合には、速やかに原則に戻らなければなりません」とシンプルに述べられている原則は、今後の緊急事態条項に関わる論議において重要なものと思います。

 しかし、特に②の内閣による緊急政令のカテゴリーは、憲法学者に首相立法権と指摘される方もあるように、発議の主体である私たち国民にとって、今後も重要な論議点・検証課題となるのではないでしょうか。

 質問3に対する回答「具体的な手続は、法律で定める」、質問5に対する「国会議員の任期延長に関する詳細は法律で定めることとしており、具体的には、この「法律」において定められることになります。」、質問7に対する「内閣は、法律の定めるところにより、政令の制定も必要になることが想定されます。」など法律で規定する点が着目されます。

 どこまで憲法に規定し、どこまで法律に規定するか、またそもそも憲法に規定する必要があるかないかは、憲法への緊急事態を設ける課題で重要な点です。憲法規定であるはずのものが法律に書き込まれた場合、国会の過半数で憲法規定が変わるということにならないのか、さらなる検証課題です。緊急事態加憲論の立場の方々には、この点での国民の疑念を払拭する努力が必要なのではないでしょうか。一方で、賛成反対双方で正確さを欠く情報による非難合戦に堕することなく、この点を冷静に検証することが重要ではないでしょうか。

 質問をまとめ、また回答を受ける過程で、私たちは海外の憲法についても関心を向け、同じ第二次世界大戦敗戦国のドイツ憲法(基本法)の特に成立過程、ドイツでは連合国による憲法案を結果的に憲法でなく基本法としたなど、相当の抵抗をしていたことは参考になりました。また、いわゆる緊急事態における英米型の不文戦時法規マーシャル・ローにおいても、英国議会、米国議会ともに議会が決定を覆す、イラク戦争に関して英元首相を議会が執拗に検証したなど、強い議会が前提にあるという点も着目されました。わが国の国会がこのような前提を持っているのかは自問されます。裁判所による違憲審査についても同様ではないでしょうか。

 また、質問1に対して「国家は常に機能して」「国民の生命・財産を守らなければならない」と回答に書かれているが、地方公共団体を飛び越して「国家」がどのような機能を果たすのか。質問3に対して「直ちに終了することになる」とされるが、法律で定めることになるとすれば、国会議員による専横の可能性を否定できないのではないか。質問5「いつ平常に戻るの?」に対して「法律で定めることとしており、」と書かれているが、その法律は改憲後に決められるのか。「法律で定めること」があいまいなまま残されていては具体的検討ができないのではないかなど、早速にさらなる素朴な疑問も寄せられました。

 しかし、今回頂いた回答は私たち国民が上記を考える上で貴重な資料です。今後、さらに各党よりも緊急事態の憲法改正案が提示されるものと思います。そもそもの憲法改正発議の主体たる私たち国民は、無関心に安寧せずに、まずは 発案者に直接伺うなど、微力であれそれぞれの不断の努力が求められています。このような中、批判のための批判をされる懸念などを持ちつつ、回答を頂きました自民党憲法改正本部にあらためて感謝申し上げます。

 

※ 無断引用転載不可  (C)Workers For Peace 2022

 自民党改憲4項目の 緊急事態対応Q&A

 

(小見出し追加 2022.9.6)

 

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